ハサミの持ち方は、指をどこにどう添えるかによって、カットの仕上がりも手や手首への負担も大きく変わります。誰にも指摘されないまま我流で持ち続けていると、切り方の幅が狭くなったり、思わぬ怪我につながったりすることもあります。
正しいハサミの持ち方の基本形から、薬指の使い方、スライドカット、くしとの持ち替え、初心者が陥りやすいクセ、習得までにかかる練習量まで、指の位置を一つひとつ具体的に整理しました。
正しい持ち方を身につければ、カットの精度が上がり、腱鞘炎などのリスクも減らせます。今日から意識できるポイントを、順番に確認していきましょう。
基本的なハサミの正しい持ち方
指はどこにどう添えるか(基本形)

薬指は、シザーの固定刃側のリングに入れます。目安は第一関節と第二関節の間くらいです。ここが浅すぎるとシザーが指の上で遊んでしまい、深すぎると関節が曲げにくくなって開閉のたびに指全体を動かすことになります。


指を大きく動かさなくてもシザーが指に添っている感覚をつくるために、ちょうど中間あたりに入れてください。

小指はリングに入れず、シザーの小指掛けに軽く乗せるだけにします。

ここに力を入れて握り込んでしまうと、薬指と小指が別々に動こうとして、シザー全体がぐらつく原因になります。小指は添えるだけ、支えは薬指に任せるイメージです。

親指は、動刃側のリングに先端から第一関節より手前くらいまで浅く入れます。根元まで入れてしまうと、開閉するたびに親指の付け根から動かす必要が出てくるので、動きが重くなり、角度を細かく調整する余裕がなくなっていきます。
浅く入れておけば、親指の先だけでシザーを開閉できるようになり、動きが軽くなりやすいです。
LBL講師の山崎人差し指はリングには入れず、シザーの根元付近に添えて支えてください。
薬指が土台、小指が添え、親指が開閉、人差し指が支えという役割分担ができると、4本の指がそれぞれ別の仕事をしながらシザー全体を安定させられるようになります。
我流のまま続けるとどうなるか
正しい持ち方ができていないと、シザーの角度やスライドの自由度が狭まります。指がリングの中で安定していないと、開く角度や入れる深さを毎回同じように再現できなくなるので、対応できるスタイルの幅も限られてきます。
持ち方が安定しないままハサミを動かすと、髪の中で刃がぶれやすくなり、自分の手を切ってしまうリスクも高くなりやすいです。
我流の持ち方を続けた場合、指の力の入れ方が偏ったまま固定されるので、手首への負担が大きくなったり、切り方のバリエーションが増えにくくなったりすることがあります。



よく「肘の角度を水平にする」と言われますが、個人的には不要だと思っていて、最小限の動きで済むのであればそれに越したことはありません。疲れるだけです。
薬指の役割とスライドカット


薬指が担う土台の役割
薬指は、シザーを安定させる土台の役割です。薬指がリングの中でわずかでも動くと、シザーの角度がそのたびに変わってしまいます。
1本の毛束を切っているつもりでも、薬指が動くたびに刃の入る角度が微妙にずれるので、切り口の高さがそろわなくなります。
薬指が動いてハサミがぶれると、カットラインがガタガタになりやすいです。直線に切ったつもりでも、毛束ごとに角度がバラついているので、仕上がりを横から見たときに段差が波打って見えてしまいます。



薬指を土台として固定し、動かすのは親指だけにする意識を持つことで、毛束が変わってもシザーの角度を一定に保てるようになります。
スライドカットの基本動作
スライドカットでは、まず毛束を必要な方向へ引き出します。開いた状態で髪に入れ込んだら、刃を浅い角度で滑らせるように動かしながら閉じていきます。
ここで最初から刃を閉じた状態で髪に入れてしまうと、刃が当たった瞬間に一点でまとまった量の毛を切ることになり、切り口が硬い直線になる、大きな原因です。
開いた状態で髪に入れてから、刃を浅い角度で滑らせるように動かしながら閉じていきます。刃が毛束の上を滑りながら少しずつ閉じていくので、一度に切れる毛量が分散され、毛先にかけて自然な段差がつきます。



角度を深く入れてしまうと、滑らせる距離が短くなり、一度に多くの毛を切ることになるので、狙った以上に軽くなったり、切り口が硬く出たりする原因になります。
ハサミとくしの持ち替え方
正しい指の使い方
ハサミとくしを同時に扱うときは、薬指をリングに入れたままにし、刃が開かないようにします。薬指を抜いてしまうと、次にハサミを使うたびにリングへ入れ直す動作が発生し、そのたびに手元が止まってしまいます。
薬指を通したままにしておけば、ハサミを持ち替える必要がありません。親指は、開閉するときだけリングに入れ、使わないときは抜きます。
親指を入れたままくしを操作しようとすると、親指の可動域がリングに制限されるので、くしを回したり傾けたりする動きが窮屈になりやすいです。親指を抜くことで、くし操作に必要な自由な角度をつくれます。



くしを使う場面では、親指・人差し指・中指の3本をくしの操作に使います。
薬指と小指はハサミを保持したまま動かさずに待機させるので、くしからハサミへ戻すときも、親指をリングに入れ直すだけで構えが完成します。
持ち替えがスムーズにいかない人の共通点
持ち替えがスムーズにできない人には、親指を深く入れすぎているという共通点があります。
親指を奥まで入れていると、抜き差しのたびに指の角度を大きく変える必要があるので、動作に時間がかかり、持ち替えのたびに手元が止まって見えてしまいます。
もうひとつの共通点は、薬指でハサミを安定して支えられていないことです。薬指の支えが弱いと、コーミングしている間にハサミが手の中でずれてしまうので、ハサミに戻すたびに握り直す動作が入ります。



薬指を固定したままにできていれば、くしからハサミに戻す瞬間も親指を入れるだけで済み、持ち替えがひとつの動作でつながるようになります。
初心者が陥りやすい間違ったハサミの持ち方
よくある間違ったパターン
初心者に多いのは、手に力が入りすぎているケースです。緊張や不安から無意識に強く握ってしまうと、シザーを動かすたびに指全体で押し込む動きになるので、開閉のスピードが一定にならず、刃先の動きも硬くなります。
刃が開いたままの状態で操作を続けてしまうパターンもよく見られます。
閉じる動作を意識せずに髪へ刃を入れると、髪を切るタイミングが毎回バラつくので、狙った位置で切れているかどうかを毛束ごとに確認しながら進めることになり、カットのテンポが乱れる方が多いです。
指をリングの奥まで深く入れてしまうパターンも典型的です。深く入れるほど関節の可動域が制限されるので、シザーを動かすたびに指の付け根から力を入れる必要が出てきて、細かい角度の調整がしづらくなります。
こうした独特の持ち方が身についてしまう背景には、誰からも指摘を受けないまま自己流で練習を続けてきた経緯があります。鏡で自分の手元を見るだけでは、指の深さや力の入り方までは把握しづらいものです。
クセの矯正にかかる期間
一度ついた間違ったクセでも、矯正にそれほど時間はかかりません。持つたびに指の位置を意識できるようになれば、短期間で修正できます。
反対に、意識せずに同じ持ち方を繰り返してしまうと、いつまで経ってもクセは直らないままになります。矯正にかかる期間を左右するのは、練習量そのものよりも、持つたびに指の位置を意識できているかどうかです。



我流で続けてきた人でも、少し指摘(指の入れなさすぎ)したら大幅に使いやすくなったという事例はあります。
正しいハサミの持ち方を身につける練習方法
最初にやるべき練習
最初にやるべきなのは、ハサミを正しく持ち、薬指と小指を固定した状態をつくることからです。その後に、薬指と小指を固定した状態をつくってから親指だけを動かすことで、開閉のたびに手全体が動いてしまうくせを断ち切れる方が多いです。
1日5分でも続けると、親指だけでシザーを操作する感覚がつかめてきます。
最初は力を入れすぎている自覚がなくても、開閉を繰り返すうちに、力を抜いたほうがシザーの動きが軽くなることに、手が徐々に気づいていきます。
力を抜いて自然に持てるようになるまでの期間には個人差がありますが、目安は2週間ほどです。



ウィッグでの練習と、実際のモデルでの練習とで、持ち方の習得における違いはありません。
指の位置や力加減はどちらでも同じように意識できるので、ウィッグの段階からすでに、本番と同じ持ち方を固めておけます。
自主練習でのチェックポイント
自分で持ち方をチェックするときは、力を抜いた状態で、実際にカットするときよりも大きめにシザーを開閉してみます。
小さく動かしていると、多少指の位置がずれていても違和感に気づきにくいものですが、大きく開閉することで、薬指が動いていないか、親指が根元まで入っていないかといったずれが手の感覚として分かってきます。



シザーの使い方がうまくいかない生徒には、手元を撮影し、その動画を参考にしながら練習してもらいました。
劇的には変わりませんでしたが、徐々によくなっていったので、日々意識することが大切です。
講師から見たシザーの扱い方の習得度とよくある悩み
現場に出せるレベルの見極め
現場に出せるレベルかどうかを判断する基準は、まずお客様にとって危険でないことです。
持ち方が安定していないままシザーを動かすと、髪の中で刃先がぶれてお客様の頭皮や耳元に触れるリスクが上がるので、危険がないと言いきれるかどうかが、最初の判断基準になります。
そのうえで、合格レベルのスタイルを最後まで切りきれるかどうかを見ています。



持ち方を直しただけで、技術や仕上がりが大きく変わるわけではありません。
持ち方は土台であり、その土台の上に毛量の見極めやスタイルの再現力といった技術を積み上げていくことで、初めて仕上がりに差が出てきます。
持ち方を正すことは、変化そのものではなく、変化を積み上げていくための前提を整える作業になります。
ベテランでも見直すべきケース
経験が長い美容師でも、腱鞘炎になってしまった場合は持ち方を見直したほうがよいでしょう。持ち方に無理な力の入り方や偏った動かし方があると、その負担は一度のカットでは表に出ず、繰り返し積み重なった結果として手首や指の痛みという形で現れてきます。



私自身が少し派手な使い方をして腱鞘炎になったことがあります。その際、手首に負担がかかっていると医師に指摘されたため、使い方を見直しました。
生徒からよくある質問・最初に伝えたいアドバイス
持ち方の指導中によく受ける相談には、片手でハサミとコームをうまく扱えない、持ち替えがうまくいかない、操作中にハサミが開いてしまうといった相談があります。
これらはいずれも、薬指でハサミを固定できていないことや、親指をリングに入れたまま次の動作に移ってしまうことが背景にあり、指の役割分担があいまいなまま手を動かしていると起こりやすくなります。



正しい持ち方をしていればカットのやりやすさ、カッコよさ、腱鞘炎のリスクなども下がるためデメリットはありません。
最初が肝心なのである程度正しく覚えることが大切です。










