訪問美容を副業として始めたいものの、本当に成り立つのか、どの程度の収入が見込めるのか、何を準備すればいいのかがわからない。そう感じている美容師の方は少なくありません。
結論からいえば、副業として訪問美容は成り立ちます。ただし、「空いた時間で気軽に稼げる仕事」ではありません。初期費用、収益の現実、時間管理、法的手続きなど、始める前に把握しておくべきことが多くあります。
副業として訪問美容は成立する人としない人の差
週1日・土日のみでも仕事はある
美容業界全体で人手不足が続いており、スポット勤務や週1日だけの稼働でも受け入れる企業もあります。副業ペースの働き方でも、需要に合わせることは十分可能です。
ただし、稼働可能な曜日は限られます。施設の場合、土曜日は需要があります。日曜日はとくに、入居者が外部のデイサービスへ行かないことが多いため、予約が集まりやすい曜日です。
一方、平日夜は施設では就寝が早く、需要はほとんどありません。また、在宅でも「夜は他人を家に入れたくない」という心理が働くため、基本的には避けられる時間帯です。
副業として成立するが、空いた時間で稼ぐ感覚では難しい
副業として訪問美容が成り立つかと問われれば、答えは「はい」です。ただし、空いた時間に少し稼ぐという感覚で現場に入ると、早い段階で行き詰まります。
訪問美容の現場では、施術だけをこなせばよいわけではありません。副業であっても、求められる内容は本業と変わりません。
施設スタッフとの関係構築や入居者の状態把握、移動・準備・片付けを含めた時間管理に加え、高齢者特有の転倒リスクへの危機管理も必要です。
teto代表中山施術以外の気遣いや対応量に対して、労力が報酬に見合わないと感じた人は、早期に現場を離れていきます。
副業として訪問美容を続ける人と辞める人の違い


報酬と労力のバランスに納得できる人は続く
1件の訪問で発生する仕事は、施術だけではありません。移動、道具の運搬、設営、施術、片付け、精算など多くの工程がありますが、報酬に反映されるのは施術時間だけです。1施設あたりの施術時間は平均6時間です。
これに加えて、前後に1〜2時間の準備・移動・後片付けが発生します。合計すると、1件あたりの実質的な拘束時間は6〜8時間で、平均は7時間ほどです。
施設スタッフとの関係が十分に築けていない段階では、入居者の誘導などに協力してもらえないケースもあります。その場合、誘導に時間がかかり、施術時間が圧迫されます。
6時間で1万円と捉えるか、8時間で1万円と捉えるかで、割に合うかどうかの判断も変わります。この構造を知らずに現場に入ると、想定外の負荷に直面し、早期離脱につながります。
報酬と労力の現実を把握したうえで「それでもやる」と決めた人が、長く続けています。
技術よりも意識と危機管理が重要
副業として訪問美容の現場に従事する場合、技術的なハードル以上に問われるのは心構えです。
施設には、常に転倒リスクを抱えた入居者がいます。転倒が車椅子での生活や寝たきりにつながるケースもあり、最悪の場合は命に関わります。このリスクへの認識が不十分だと、施設側から継続の依頼が来なくなります。
訪問美容の仕事は施設スタッフとの信頼関係のうえに成り立っています。施設スタッフとの連携が円滑でなければ、入居者への案内や施術の段取りが円滑に進みません。
副業であっても、施設スタッフとの関係構築と危機管理が、継続依頼につながるかどうかを左右します。
副業でも必要な最低限の技術レベル
意識面を前提としたうえで、技術面にも一定の基準が求められます。ワンレン、レイヤー、グラデーション、刈り上げといった基本のカット技術は必須です。週1〜2回の稼働であっても、この水準が備わっていれば技術的な不安はありません。
頻度が少ないことで技術が鈍ること以上に、現場での接し方や危機管理への意識を維持できるかが、継続的な依頼につながるかどうかを大きく左右します。



謙虚な姿勢や危機管理への意識を徹底できることが重要です。
副業訪問美容の収支と初期費用の現実
初期費用は状況によって大きく変わる
副業として訪問美容を始める際の初期費用は、現在の状況によって大きく3つのパターンに分かれます。
既存の訪問美容会社に業務委託として入る場合、道具や営業基盤はすでに会社側で用意されています。自分で用意するものはほとんどなく、初期投資は実質0円です。
すでに車を持ち、美容室も経営している場合は、衛生消耗品など最低限のものを揃えるだけで済みます。そのため、数千円程度で始められます。
基盤がない状態で独立開業する場合は、最低でも30万円程度が必要です。車両費に約10万円、道具類に約10万円、名刺・パンフレット・広告費に約10万円が目安になります。
初期費用を抑えたい場合は、カットのみに絞って道具代を半減させたり、広告費をかけずにSNSで集客する方法があります。
最初から用意すべきものと後回しにしてよいものは、以下のとおりです。
最初から揃えておくべきものは、カット・顔剃り・パーマ・カラー・シャンプー(移動式シャンプー台を含む)に使う道具や薬剤、そしてホームページ・パンフレット・名刺です。
それ以外のメニューで使う道具は、軌道に乗ってから追加で購入すれば問題ありません。


回収時期は読めない
副業として訪問美容を始めた場合、収益が安定するまでの期間は一概には言えません。
施設の規模や契約件数、単価、訪問頻度はそれぞれ異なります。さらに、新規契約をいつ取れるかは、経験や信用の蓄積に左右されるからです。
経験が浅い段階では信頼が得られにくく、紹介も期待できません。そのため、新規契約の獲得のペースが上がりません。
契約が取れたとしても、現場対応についての理解が不十分なまま対応を続けると、継続依頼にはつながりません。



17年目を迎える当社でも、新規契約が3か月以上取れないことがあります。一方で、1か月で5件以上の契約が取れることもあります。
経験の浅い新規参入の場合は、信用が弱く、紹介も見込めません。そのため、投資を回収できる見込みが立てにくいです。
まずは、準備なく開始するのではなく、既存の会社で学びながら地道に営業を重ねていくことをおすすめします。
副業訪問美容は実際どれくらい稼げる?


1日1施設15名で2.5万〜3万円が目安
1日の稼ぎの目安は、1施設で15名を施術した場合、25,000円〜30,000円程度です。これは、施術スピードと技術が一定水準に達していることが前提です。
1日6時間の施術枠の中で15名を担当するには、それなりの現場慣れが必要になります。
在宅訪問によるカットでは、全国平均のカット料金は4,206円です(2026年、当社調査)。出張費を含めると、5,000〜6,000円に収まるケースが多いです。
シャンプーやカラーなどのオプション料金が加算され、それに伴い収入が増えます。




週1勤務なら月3万〜5万円程度
週1日・6時間労働のペースで稼働した場合、月収は30,000円〜50,000円程度が現実的です。ただし、この水準に達するには、施設との関係が安定し、毎月一定の人数を任せてもらえる状態が前提となります。
施設との関係構築ができていない段階では、この金額を安定して得るのは難しいと見ておくべきです。
単価設定の考え方
単価を決める際は、まず同じエリアで活動している同業者の価格帯を調べます。そのうえで、高単価・中単価・低単価のどの位置でサービスを提供するかを自分の中で明確にしておきます。
経験が浅い段階では、同業の相場に合わせて単価を設定しても、実績や信用が伴わず、契約が伸び悩みます。最初は相場より低めに設定して実績を積む選択肢も現実的です。



施設によっては売上の5〜30%を施設使用料として求められる場合があります。
使用料の割合に合わせて施術単価を調整しておかないと、手元に残る利益が極端に下がります。
利益が残らない人の共通点と隠れたコスト
稼いでいるように見えて利益が残らないケースには、共通したパターンがあります。
施設スタッフとの関係が希薄だと、入居者の誘導や段取りへの協力が得られにくく、施術以外の時間的ロスが積み重なります。
施設使用料に見合う分の単価を上乗せできないまま稼働を続けると、見かけの売上と手取りに大きな差が生じます。
車にかかる費用も見落とされがちです。ガソリン代や高速代、保険、車検など、車1台を維持する費用が月々の収益を圧迫します。移動コストも含めて収支を計算するようにしてください。
副業での訪問美容の働き方と時間管理


1件あたり実際は6〜8時間かかる
施設への訪問美容の1件あたりの実質的な所要時間は6〜8時間で、平均は約7時間です。施術時間は平均6時間ですが、準備や移動、道具の運搬、設営、片付け、精算などの時間も必要です。こうした作業時間は、報酬に反映されません。
副業として1件請け負うと、その日はほぼ終日かかります。「午前中だけ」「数時間だけ」という感覚で組める仕事ではありません。スケジュールを組む前に、この時間感覚を現実として把握しておくことが大切です。
在宅訪問美容の場合、施術時間は30分~1時間程度です。加えて、移動や準備など、施術以外の時間が1時間程度かかります。個人で副業として取り組む場合は、在宅訪問美容を推奨します。



午前中だけ働きたい、あるいは午後から3時ごろまで働きたいなど、短時間勤務を希望する場合は、既存の企業と業務委託契約を結び、その時間帯だけ業務を行うほうが現実的です。
子育て中に難しいポイント
施設訪問美容では、施設側のケアプランに合わせた固定の訪問日を求められる傾向があります。美容師側の都合で日程を変えにくいため、子育て中など急な予定変更が生じやすい生活状況には適していません。
既存企業で副業する場合は、別のスタッフが代わりに対応できる仕組みがあるため、ある程度カバーできます。
個人で契約を持っている場合は代替が利かず、訪問できない日が続くと契約を失うリスクがあります。子育て期間を見込んで活動する場合は、信頼できる代替の美容師をあらかじめ確保しておきましょう。
副業で始めるなら個人集客と業務委託どちらが現実的?
個人での副業集客が難しい理由
個人で訪問美容の副業を始める場合、集客手段がほとんどない状態からスタートすることになります。
新規顧客を獲得するには、ケアマネジャーや施設関係者との人脈に加えて、集客できるWebサイトやSNS運用の体制が必要です。場合によっては、Web広告を出すための資金も求められます。
これらを一から用意できるのであれば、個人でも顧客を獲得できます。
かつては施設への飛び込み営業で契約を獲得できた時期もありました。しかし現在は、個人が飛び込み営業で施設を新規開拓するのは困難です。
営業手段や営業に使える時間が限られている状況で、副業の合間を縫って個人集客を続けるのは、現実的に難しいです。
最初は既存企業に入る方が現実的
副業として訪問美容を始めるなら、既存の訪問美容会社に業務委託として入る方が、安定して仕事を紹介してもらえるので、現実的です。
既存企業で働きながら福祉の現場を理解し、福祉従事者とのつながりを築いていくことが先決です。その経験を積んだうえで個人集客や独立を目指すなら、経験者として営業先にアプローチできます。
在宅と施設はどちらが副業向き?
収益性と安定性の面では、施設のほうが優位です。定期訪問が基本のため、毎月依頼が入りやすく、まとまった人数を担当できます。
ただし、施設との契約は「空き時間に対応する」といった感覚では対応できません。予約人数が多い場合は、手伝ってくれる美容師の確保も必要になります。
在宅は1件あたりの拘束時間が短いため、副業として取り組みやすいです。ただし、双方の都合を合わせる日程調整に手間がかかります。また、次回依頼のタイミングが読めないため、見込み売上が立てにくいです。



1人で副業として訪問美容を行うなら、在宅訪問美容が現実的です。
リピーターが増える訪問美容師の特徴
施設でも在宅でも、一度訪問した美容師は信頼されやすいです。第三者を施設や自宅に迎え入れる以上、初対面の美容師より、面識のある美容師の方が安心感があります。
施設側にとっても、利用者の特性を一から説明する手間や、契約書などの取り決めをやり直す負担がありません。そのため、継続依頼につながりやすい構造です。
一方で、最初の1回で信頼を損なうと次の依頼につながりません。
副業の訪問美容で必ず確認したい保険・手続き


開始前に確認したい法的手続き
まず、理美容師免許は必須です。勤務先の副業規定も事前に確認しておきましょう。
個人で開業する場合は、税務署への開業届の提出が必要です。開業届を出さなくても、すぐに違法になるわけではありません。
ただし、屋号口座を作りにくい、補助金や融資で不利になるなどのデメリットがあります。また、地域によっては保健所への申請が必要です。事前に、お住まいの市町村の保健所で確認しておきましょう。
給与以外の所得が年間20万円を超えると確定申告が必要になります。個別の状況によって変わる部分は、税理士や税務署に確認してください。


損害賠償保険は必須
高齢者は常に転倒のリスクを抱えています。転倒が車椅子生活や寝たきりにつながるケースがあり、重篤な場合には生命に関わります。転倒で後遺障害が残った場合、賠償額が多額になるケースもあります。
副業で売上が低迷する時期であっても、損害賠償保険には加入してください。
保険の選択肢として、サロンオーナー向けには全美連の保険があります。個人事業主やフリーランスも加入できる「みんなのサロンほけん」は、保険料が売上高によって異なるため、スタートアップ時に使いやすい保険です。


勤務先が副業禁止の場合の注意点
勤務先のサロンが副業を禁止している場合、訪問美容を始めることは就業規則違反になります。
業務委託として既存企業に入る場合でも、個人で独立する場合でも、勤務先との契約に反するという点では同じです。発覚した場合、解雇や処分を受けるリスクがあります。
また、勤務先の許可を得ないまま副業先と業務委託契約を結ぶと、契約上、虚偽の申告にあたります。
訪問美容の現場で事故が起きた場合、主たる雇用主に責任が問われるので、受け入れ側の企業でも、面接時に勤務先の許可の有無を確認しています。
副業を始める前に、勤務先の就業規則を必ず確認し、必要に応じて許可を得たうえで進めてください。











