美容師の業務委託とフリーランスの違い|正社員との差と切り替え手続き

美容師の業務委託とフリーランスの違い|正社員との差と切り替え手続き

美容師の働き方を調べていると、業務委託とフリーランスという言葉がほぼ同じ意味のように並んで出てきます。

求人票に業務委託(フリーランス)と書かれていることもあり、二つは同じものなのか、正社員と比べて何が変わるのか、はっきりしないまま転職や独立を考えている美容師もいるはずです。

美容師の業務委託とフリーランスの違いは、言葉の関係さえ押さえれば簡単に理解できます。そこから収入の決まり方、社会保険や税金、働く時間の自由度へと視点を広げていくと、正社員との違いも自分の生活に当てはめて比べられるようになります。

目次

美容師の業務委託とフリーランスは何が違う?

業務委託は仕事を任せる・受けるという契約の形、フリーランスは雇われずに働く人の呼び名です。比べている軸がそもそも違うので、どちらが得かという観点では答えが出ません。

teto代表中山

フリーランスの働き方の一つに、業務委託があります。

業務委託は契約の形、フリーランスは働き方の呼び名

言葉何を表すか美容師の例
正社員雇用契約で雇われる働き方サロンの指示のもとで働き、月給を受け取る
業務委託仕事を任せる・受ける契約の形サロンと契約し、固定の報酬や売上の歩合で報酬を受け取る
フリーランス雇われずに働く人の呼び名業務委託サロン、面貸し、出張、自分のサロンで働く
個人事業主税金の手続き上の立場開業届を出し、確定申告で所得を申告する

フリーランスとは?

フリーランスは法律で定められた用語ではなく、会社やサロンに雇われず、自分の技術や経験で収入を得る人を指す呼び名です。個人事業主もほぼ同じ意味で使われる言葉で、こちらは開業届や確定申告など、税金の手続きの場面でよく登場します。

業務委託は、事業者が別の事業者に仕事を任せる取引の形です。2024年11月に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法では、業務委託を、事業者がほかの事業者に物品の製造や役務の提供などを委託することと定めています。

その委託を受ける側のうち、従業員を雇っていない個人などが、この法律で保護されるフリーランスに当たります。

フリーランスの美容師とは?

美容師に当てはめると、サロンと業務委託契約を結んで働く美容師は、契約形態が業務委託で、働き方としてはフリーランスに当たります。

業務委託美容師は、フリーランス美容師の一つの形態に当たります。求人票で業務委託とフリーランスが並べて書かれているのは、この重なりがあるからです。

ただし、フリーランス美容師の全員が業務委託契約で働いているわけではありません。サロンの席を借りる面貸しや、自分で開いたサロンでの営業など、契約形態が異なる働き方もフリーランスに含まれます。

フリーランス美容師の主な働き方

同じフリーランスでも、どこで施術するか、誰がお客様を集めるかによって、収入の安定感や必要な準備は大きく変わります。

働き方施術する場所集客お金の流れ
業務委託サロン契約したサロン主にサロン売上の歩合を報酬として受け取る
面貸し・シェアサロン借りた席やブース自分売上から席の使用料を払う
出張・訪問自宅や施設など契約先または自分委託報酬や施術料を受け取る
自分のサロン自分で開設した美容所自分売上から家賃や経費を払う

業務委託サロン

集客や予約管理、シャンプー台などの設備はサロンが用意し、美容師は施術に集中できます。報酬は担当した売上に歩合率を掛けた額が基本で、指名が増えるほど収入にそのまま反映されます。

出勤日や時間を自分で決められる契約もあり、正社員からフリーランスへ移るときの最初の一歩として選ばれやすい働き方です。

面貸し・シェアサロン

サロンの席やブースを借りて、自分のお客様を施術します。使用料は定額のものもあれば売上の割合で払うものもあり、契約によってさまざまです。

予約を取るのは自分なので、前の職場からついてきてくれる指名客がいる人ほど始めやすく、予約が入らない日にも使用料がかかる契約では、集客力がそのまま手取りの差になります。

出張・訪問

美容師法では、美容所以外の場所での施術は原則として禁止されています。

例外として認められるのは、病気やけが、要介護状態などの理由で美容所に来られない方への施術、婚礼などの儀式の直前の施術、自治体が条例で定める場合(社会福祉施設の入所者への施術など)です。

どこへでも自由に出張できるわけではないので、出張で働くなら、施術を行う地域を管轄する保健所で届出の要否や衛生のルールを確かめておきましょう。

独立開業し自分のサロンを経営する

美容所を開くときは、開設前に都道府県知事(保健所を経由)に届け出て、構造設備の検査を受け、確認を得なければ営業できません。家賃や設備投資の費用、集客をすべて自分で担う代わりに、メニューや価格、営業日を自由に決められます。

正社員・業務委託・フリーランスの違いを表で比較

3つの働き方は、誰の指示で働くか、報酬がどう決まるか、保険や税金の手続きを誰が担うかで分かれます。

項目正社員業務委託フリーランス(面貸し・独立)
契約雇用契約業務委託契約席の利用契約や開業
仕事の進め方サロンの指示に従う施術の進め方は自分で決めるすべて自分で決める
報酬月給・賞与歩合、時給・日給、固定+歩合など契約による売上から経費を引いた額
健康保険・年金勤務先の健康保険・厚生年金国民健康保険・国民年金国民健康保険・国民年金
雇用保険・労災保険加入雇用保険なし、労災は任意で特別加入雇用保険なし、労災は任意で特別加入
有給・残業代ありなしなし
道具・経費主にサロン負担契約による自己負担
税金会社が年末調整自分で確定申告自分で確定申告
集客サロン主にサロン自分

収入と報酬の決まり方

正社員の給与は月給制が基本で、担当したお客様が少ない月でも大きくは変わりません。予約の少ない平日が続いても生活費の見通しが立つ反面、指名が増えて売上が伸びても、その成果が収入に反映されるのは昇給や賞与の査定を経てからです。

業務委託は契約によって報酬の形が変わる

業務委託の報酬は、歩合だけとは限りません。売上に連動する形、働いた時間に連動する形、その両方を組み合わせた形があり、どれになるかは契約で決まります。

報酬の形決まり方収入の動き方
完全歩合担当した売上×歩合率売上が伸びれば増え、少ない月は減る
時給・日給稼働した時間や日数×単価売上に左右されにくい
固定+歩合時給などの固定分に売上の歩合を上乗せ最低限を確保しつつ上積みを狙える

報酬の形によって手元に残る金額の変化は違います。仮に完全歩合で歩合率40%なら、売上60万円の月の報酬は24万円、80万円の月は32万円になり、売上の増減がそのまま報酬に響きます。

時給制なら、予約が少なく待ち時間の長い日でも稼働した分の報酬が発生する一方、指名が増えても単価が上がらない限り報酬は伸びません。

額面だけで比べると差を見誤る

見落としやすいのは、同じ月収25万円でも中身が違う点です。正社員の月給からは社会保険料や所得税が天引きされ、厚生年金と健康保険の保険料は会社が半分を負担しています。

業務委託の報酬は額面どおりに受け取り、国民健康保険料や国民年金保険料、所得税、住民税はそこから自分で納める形です。道具代や交通費が自己負担の契約なら、その分も報酬から出ていきます。

求人を比べるときは、まず報酬の形を確かめ、業務委託の報酬から保険料・税金・経費を差し引いた金額を、正社員の手取り額と並べてみてください。求人票の数字だけでは見えない差が、具体的な金額でつかめます。

社会保険・税金・もしもの保障

健康保険と年金

正社員は勤務先の健康保険と厚生年金に加入し、保険料は会社と半分ずつ負担します。公的年金は国民年金の上に厚生年金が乗る2階建ての仕組みなので、厚生年金に入っていた期間が長いほど、将来の年金も手厚くなります。

離職して求職するときに受け取れる失業給付や、仕事中・通勤中のケガに備える労災保険も、雇用されているからこそ使える制度です。

業務委託やフリーランスの場合、健康保険は国民健康保険、年金は国民年金に自分で加入し、保険料も全額を自分で払います。雇用保険の対象にはならないので、契約が終わって仕事がなくなっても失業給付は受けられません。

ケガへの備えは労災保険の特別加入

ケガや病気への備えとして、2024年11月からフリーランスも労災保険に特別加入できるようになりました。

加入は任意で保険料も自己負担ですが、都道府県労働局長の承認を受けた特別加入団体を通して申し込めば、施術中にシザーで手を深く切ったときや、出張先へ向かう途中の事故でも、療養に必要な給付や休業補償を受けられる仕組みです。

年末調整から確定申告へ

税金の手続きも変わります。正社員なら会社が年末調整をしてくれるので、副業などがなければ自分で申告する場面はほとんどありません。

業務委託やフリーランスは、1年間の売上から道具代や交通費などの経費を差し引いた所得を自分で計算し、確定申告を行い、税金を納めることになります。

業務委託に移るなら、毎月の報酬から保険料と税金の分を別の口座に取り分けておくと、納付の時期にあわてずに済みます。手や腕を酷使する仕事なので、労災保険の特別加入も早めに検討しておくと安心です。

働く時間と自由度

決められた時間で働くか、自分で組み立てるか

正社員は、サロンが決めたシフトと勤務時間に沿って働き、担当メニューや施術の進め方も店の方針に従います。その代わり、労働基準法によって労働時間や休日、年次有給休暇、残業代などが保障されています。

業務委託は本来、仕事の進め方を自分で決められる働き方で、出勤日や時間も自分で組み立てることができ、平日だけ、午前中だけといった働き方を契約次第で選べる自由度の高さが特徴です。

その裏返しとして有給休暇や残業代はなく、休んだ日は報酬が発生しません。

teto代表中山

業務委託でも、「月に何時間働いてください」などの契約になる場合もあるので、前もって確認しておきましょう。

名前だけの業務委託に注意

契約の名称が業務委託契約でも、労働基準法上の労働者に当たるかどうかは、契約の形式や名称ではなく実際の働き方から総合的に判断されます。

出勤時間や休憩の取り方、施術の手順まで細かく指示され、依頼を断る自由もない状態なら、実態は雇用に近いと判断される可能性があります。

業務委託なのに正社員と同じように縛られていると感じたら、全国の労働基準監督署に設けられたフリーランス向けの相談窓口を利用してみてください。

正社員から業務委託に切り替える前に確認したいこと

雇用契約から業務委託契約に変わると、働く条件を定める基準は労働基準法から、自分が署名する契約書へと変わります。退職後の保険や税金の手続きも、これからは自分で進める立場です。

契約書で見ておきたい項目

サインする前に確かめる項目

報酬の数字だけを見て契約すると、何に対して報酬が支払われるのか、どの費用が報酬から引かれるのかがあいまいなまま働き始めることになります。

項目確認することあいまいなままだと
報酬の形と計算方法歩合・時給・固定+歩合のどれか、歩合なら対象になる売上の範囲想定より報酬が少なくなる
支払日締め日と支払日生活費の見通しが立たない
経費の負担薬剤・タオル・道具・場所代などを誰が払うか報酬から思わぬ天引きが出る
契約期間と更新期間の長さ、自動更新の有無辞めたい時期に辞められない
解除の条件解除される場合、予告の期間突然仕事がなくなる
契約終了後の制限近隣での開業や指名客への連絡の制限次の働き方が縛られる
クレーム・事故の扱いやり直し分の報酬、賠償の責任トラブル時の負担が読めない

2024年11月に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法では、従業員を雇っているサロンがフリーランスに仕事を任せるとき、業務の内容や報酬の額などを書面またはメールなどで示すよう義務づけています。

条件を口頭で伝えられただけなら、書面またはメールなどで受け取れるよう、遠慮なく求めましょう。

契約期間と解除の条件

契約期間と解除の条件は、実際に働き始めてから重要になる事項です。何か月前までに申し出れば契約を更新しなくてよいのか、どのような状態が続くと解除されるのかを知っておくと、日々の仕事で求められていることもはっきりします。

更新するかどうかの判断で見ているのは、技術だけではありません。

退職から開業までに必要な手続き

手続き期限窓口
国民健康保険への加入退職後14日以内市区町村
健康保険の任意継続(国保の代わりに選ぶ場合)退職日の翌日から20日以内協会けんぽなど
国民年金への切り替え退職後すみやかに市区町村
開業届開業した年の確定申告期限まで税務署
青色申告承認申請書開業日から2か月以内(1月16日以後の開業)税務署
確定申告翌年の申告期間税務署

健康保険は国保か任意継続かを比べて選ぶ

最初に迷いやすいのが健康保険です。

退職後は、国民健康保険に入る、勤めていた会社の健康保険を任意継続する、家族の扶養に入る、のいずれかを選びます。任意継続は最長2年間加入でき、保険料は在職中に引かれていた額のおよそ2倍が目安です。

会社が半分を負担していた分まで自分で払う仕組みなので割高に見えますが、任意継続は退職前の給与、国民健康保険は前年の所得などで保険料が決まるので、どちらが安いかは人によって変わります。

退職前に市区町村の窓口で国民健康保険料を試算してもらい、任意継続の額と比べてから選びましょう。任意継続の申出は退職日の翌日から20日以内なので、退職してから調べ始めると間に合わないこともあります。

開業届と青色申告承認申請書

開業届の提出期限は、2026年1月1日以後に開業した場合、開業した年分の確定申告期限までに、開業した年分の確定申告期限までに改められました。

一方で、青色申告の特典を受けるには、開業日から2か月以内に青色申告承認申請書を出しておく必要があります。

開業届と青色申告承認申請書は、業務委託で働き始めた月のうちにまとめて出しておくと、期限を気にせずに済みます。

インボイス制度への登録

インボイス制度への登録は任意です。ただし契約するサロンによっては、登録を求められたり、登録の有無で報酬の扱いが変わったりします。

登録が必要かどうかは、契約前の面談で確かめておいてください。

初めての確定申告

初めての確定申告は、経費になる領収書の分け方や帳簿のつけ方でつまずきやすいです。相談できる窓口が契約先にあるかどうかも、契約前に見ておきたいポイントになります。

フリーランス新法で守られる範囲

契約期間ごとのルール

業務委託で働く美容師は労働基準法の保護を受けにくい一方で、フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス新法)が取引の最低限のルールを定めています。

対象となるのは、従業員を雇っているサロンや会社から仕事を委託されるケースです。契約期間が長いほど、守られる範囲も広がります。

契約の期間サロン側に課される主なルール
期間を問わず業務内容・報酬額などを書面やメールで明示
報酬は原則60日以内に支払い
募集情報を正確に表示
ハラスメント対策の体制整備
1か月以上受領拒否、報酬の減額、返品などの禁止
不当に安い報酬の設定や、物の購入の強制などの禁止
6か月以上中途解除・不更新は30日前までに予告
求めがあれば解除・不更新の理由を開示
育児や介護と両立できるよう配慮

現場で起きやすい場面と相談先

美容師の仕事に当てはめると、半年以上続けてきた契約を、ある日突然今月末で終わりと告げられるのは、このルールに反するおそれがあります。一方的に報酬を減らされた、契約にない物販の購入を求められたといった場面も同様です。

相談先はトラブルの内容によって分かれ、報酬や取引条件なら公正取引委員会や中小企業庁、ハラスメントや育児・介護との両立に関する相談なら、都道府県労働局が窓口です。

サロンとの話し合いで解決しないときに備えて、契約書ややり取りのメール、LINEは消さずに残しておいてください。

正社員・業務委託・フリーランスの向き不向き

どの働き方が合うかは、技術がどの段階にあるか、指名客がいるかどうか、収入の安定と働き方の自由のどちらを優先したいかで変わります。

正社員が向いている人

技術を基礎から固めたい人

サロンによっては営業後の練習時間やカリキュラムがあり、先輩のチェックを受けながらスタイリストを目指せます。業務委託で一人で施術を任される働き方と違い、技術を身につけている段階に合った働き方です。

毎月の収入を安定させたい人

月給制なので、予約が少ない月でも生活費の見通しが崩れにくいのが強みです。家賃やローンなど毎月決まった支払いが大きい時期は、収入の波が小さいことが何よりの安心材料になります。

保険や税金の手続きを任せたい人

社会保険の加入や年末調整は会社が進めてくれるので、施術以外の事務に時間を取られません。厚生年金に入り続けることで、将来の年金を厚くできる点も見逃せないところです。

業務委託が向いている人

一人でお客様を任せられる技術がある人

業務委託では、カウンセリングから仕上げまでを一人で担当するのが基本です。カットやカラーを安定した品質で任せられる段階になってから切り替えると、報酬にも評価にも技術が反映されやすくなります。

集客は任せて施術に集中したい人

予約管理や集客をサロンが担う契約であれば、自分でお客様を集める負担を抑えて始められます。指名客がまだ少ない人にとっては、面貸しや独立よりも踏み出しやすい形です。

働く日や時間を自分で決めたい人

子育てや介護、副業などと両立したい人には、出勤日や時間を組み立てられる自由度が合っています。平日の日中だけ、週3日だけといった働き方を、契約の段階で決めておけるのが魅力です。

収入の波を自分で管理できる人

歩合制の契約では月ごとに報酬が変動し、保険料や税金の負担や手続きも契約内容に応じて自身で行う場合があります。収入の変動が不安な場合は、固定報酬と歩合を組み合わせた契約など、変動を抑えられる条件を選ぶ方法もあります。

フリーランス(面貸し・独立)が向いている人

前の職場からついてきてくれる指名客がいる人

面貸しや独立では、予約が入るかどうかが自分の集客力にかかっています。指名客を抱えていれば最初の月から売上の土台があり、席の使用料や家賃を払っても手元に残りやすくなります。

SNSなどで自分を発信できる人

新規のお客様を集客する手段を自分で持っているかどうかが、収入の伸びを左右します。スタイル写真の投稿や予約サイトの運用を、施術と同じくらい楽しめる人に向いた働き方です。

価格やメニューを自分で決めたい人

施術の価格、メニュー、営業日をすべて自分で決められるのは、面貸しや独立ならではの自由です。将来自分のサロンを持ちたい人が、面貸しで経営の感覚をつかんでから開業に進む道もあります。

訪問美容で業務委託として働くという選択肢

業務委託で働ける場所はサロンだけではありません。高齢者施設や病院、自宅で過ごす方のもとへ出向く訪問美容でも、業務委託で働く美容師がいます。

働く場所が変わる分、仕事の入り方やお金の出入り、求められる力にも、サロンとは違う特徴があります。

サロンの業務委託との違い

仕事は事業者から割り振られる

訪問美容では、事業者が施設や病院、ケアマネジャーなどから依頼を受け、訪問先を美容師に割り振る形で仕事が入ります。

新規のお客様の来店を待つサロンと違い、指名客を抱えていなくても、事業者の契約先がそのまま仕事の場になる仕組みです。その分、収入は事業者が受ける依頼の量に左右され、時期による波もあります。

契約を考えている事業者があれば、1日あたりの報酬の目安や、依頼が減りやすい時期を聞いておくと、収入の見通しが立てやすくなります。

日中に仕事が終わり、訪問先を移動して回る

施設の生活リズムに合わせて施術するので、仕事は日中が中心です。夜まで営業するサロンと比べると、夕方以降の時間を家族や自分のために使いやすくなります。

訪問先は日によって変わり、車や公共交通機関で施設や自宅を回ります。移動時間が報酬の対象になるか、交通費を誰が負担するかは、事業者によって扱いが分かれるところです。

施術する環境が毎回変わる

施術場所は、施設の一室や居室、ときにはベッドの上です。厚生労働省の出張理容・出張美容に関する衛生管理要領では、床が水を通しやすい素材の場合はビニールなどのシートを敷いて作業すること、照明や換気を十分にすること、携行する器具を衛生的に管理し消毒することなどを定めています。

シャンプー台も大きな鏡もない場所で、限られた道具を使って仕上げるまでの段取りが、サロンワークとの大きな違いです。

報酬と経費の考え方

報酬の形と移動時間の扱い

訪問美容の業務委託でも、報酬の形は事業者によって異なります。施術による売上に対する歩合のほか、時間単位や1日単位で報酬を決めている事業者もあります。

サロンと比べて見落としやすいのが移動時間です。歩合の契約では移動に使った時間が報酬に結びつかないので、1日に担当できる人数が収入を左右します。

時間単位の契約なら、移動時間が稼働時間に含まれるかどうかで、同じ1日でも受け取る額が変わります。契約前には、報酬の計算方法とあわせて、移動時間の扱いも確かめておいてください。

交通費と道具の負担

業務委託では、交通費や道具を自分で負担する契約もあります。車で回るなら、ガソリン代や駐車場代を誰が払うかで、手元に残る金額は大きく変わるので、事前に確認が必要です。

カット、カラー、パーマに使う道具一式を訪問先まで持ち運びます。サロンの業務委託ならサロンの設備を使えますが、訪問美容では、道具一式をそろえていることが仕事の前提です。

自前の道具を使うのか、事業者から借りられるのかも、始める前に確かめておきたい点です。

求められる技術と向き不向き

一人で現場を任されるまで

訪問先では、一人の美容師が1日に何人ものお客様を担当します。サロンと同じペースでカウンセリングから仕上げまで進めていると、予定していた人数を時間内に終えられません。

限られた時間の中で仕上がりの質を保てるかどうかが、一人で現場を任せてもらえるかどうかの分かれ目になります。

訪問美容への切り替えを考えているなら、今のサロンでカット1人あたりにかかる時間を一度測ってみてください。自分のペースを数字で知っておくと、訪問先で求められる速さとの差がつかみやすくなります。

対応できないメニューがあるとき

訪問先では、カットのほかにカラーやパーマを希望されることもあります。業務委託では、その場の依頼に一人で応えられるかどうかが、任される仕事の量に影響することが多いです。

カット以外の施術に自信がない段階なら、いきなり業務委託で契約するより、雇用契約で訪問美容の現場に入り、カラーやパーマの経験を積んでから業務委託に切り替える道もあります。

契約前の面談で対応できるメニューを正直に伝えておくと、無理のない仕事の割り振りにつながります。

高齢の方や介助が必要な方への接し方

訪問美容のお客様には、認知症の方や寝たきりの方、車いすで過ごす方もいます。座った姿勢が安定しない方には体の傾きに合わせてハサミを動かし、ベッドの上で施術することもあります。

声のかけ方ひとつで落ち着いて座っていられるかどうかが変わるので、相手のペースに合わせた接し方が仕上がりにも直結する仕事です。立ち上がりや移動に付き添う場面もあり、サロンで培った技術だけでは対応しきれません。

認知症の方への接し方や介助の基本は、事業者の研修のほか、介護職員初任者研修などの講座でも学べます。

チームで現場を回す働き方

施設では、その日に予約を受けた多くのお客様を、数人の美容師で手分けして施術することがあります。ベッドの上で施術を受ける方の体を支えたり、お客様を施術の場所まで誘導したりと、ハサミを持つ以外の作業も必要です。

自分の担当が早く終われば、ほかの美容師の担当分を引き受けて全員の施術を時間内に終わらせるのが、訪問美容の現場の動き方です。一人ひとりが自分の売上を伸ばすサロンとは、仕事の進め方そのものが違います。

訪問美容の業務委託に向いている人

サロンでは、技術や提案力で指名を集めることが評価につながります。訪問美容で仕事の質を決めるのは、限られた時間の中で、すべてのお客様に安心して過ごしていただけるよう、施術を最後まで行えるかどうかです。

  • 高齢の方と話すことが好きな人
  • 決まった時間の中で段取りよく動ける人
  • 仲間と助け合いながら仕事を進めたい人
  • 日中に働き、夕方以降の時間を大切にしたい人

反対に、トレンドのスタイルを提案して指名を増やしたい人や、一人で黙々と自分の売上を伸ばしたい人は、サロンでの業務委託やフリーランスのほうが力を発揮しやすいでしょう。

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この記事を書いた人

中山貴史のアバター 中山貴史 teto代表

株式会社teto 代表取締役。美容師としての現場経験を経て、2010年に訪問理美容tetoを開設。2014年に株式会社tetoを設立し、高齢者施設・医療機関向けの訪問理美容サービスを展開。

現在は約400施設と契約し、年間55,000名以上の施術を担当。これまでに100名以上の訪問美容師を育成し、福祉美容分野の人材育成にも注力している。

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