訪問美容の仕事では、施設との契約のほかに社員や業務委託との契約の際に、契約書が必要になります。口約束だけで進めていると、急なキャンセル・料金トラブル・事故時の責任問題など、思わぬ場面で困ることになります。
ただ、雇用契約の契約書はどう書けばいいか、ネット上にも情報は多いですが、訪問美容で施設や業務委託との契約書の情報はありません。
そこで、今回はtetoが契約時に使っているものをベースに、必ず入れるべき条項のチェックリストやポイントをご紹介します。
訪問美容に契約書は必要か?契約で起こるトラブル例

訪問美容は、介護施設や在宅など美容室以外の場所で施術を行う特殊な環境です。トラブルが起きたとき、誰が責任を負うのかが非常に曖昧になりやすいのが大きな特徴です。
口約束で仕事を続けていると、下記のようなトラブルが実際に起こります。
施設との契約で起こるトラブル例
- 料金・支払い
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料金表を口頭で伝えていたが、後から施設側が「そんな金額は聞いていない」と言い出し、値下げを要求された。
- 急なキャンセル
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訪問当日に施設側から一方的にキャンセルされた。交通費や当日確保していた時間の補償を求めたが、根拠となる取り決めがなく泣き寝入りになった。
- 事故・賠償
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施術中に利用者が体調不良になった。施設側から全責任を美容師側に押しつけられそうになったが、事前の体調確認が施設側の義務だという取り決めがなく、交渉が長期化した。
- 解約・契約終了
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担当者が変わったタイミングで突然「来月から来なくていい」と言われた。引き継ぎ期間の売上見通しが立たず、経営に支障が出た。
これらはあくまで例ですが、きちんとした契約書がなければ、どちらに責任があるなど明確になっていないので、常に大きなリスクを抱えたまま仕事をする事になります。
業務委託契約で起こるトラブル例
- 無断欠勤・当日キャンセル
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委託スタッフが当日連絡なしに来なかった。施設への謝罪・代替対応はすべて会社側が行ったが、スタッフへの損害請求の根拠がなかった。
- 引き抜き・顧客の横取り
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契約終了後、そのスタッフが会社の契約施設に直接営業をかけ、個別に契約を結んでしまった。契約書に競業避止の条項がなく、対処できなかった。
- 報酬トラブル
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売上の何%が報酬か、施設使用料を引いた後の金額に対してなのか、認識がズレていた。支払い後に「聞いていた金額と違う」と言われてしまった。
- 事故時の責任
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委託スタッフが施術中に利用者を転倒させてしまった。賠償責任の所在と保険対応について、事前に取り決めがなかったため、会社側がすべて対応する羽目になった。
これらのトラブルは、起きてから決めるのではなく、起きる前に取り決めておくことで大部分が防げます。契約書はトラブルを避けるためではなく、お互いが安心して仕事できる環境をつくるためのものです。
訪問美容の契約書に必ず入れるべき条項チェックリスト

施設との契約書|チェック項目
- 業務内容の明記:カット・カラー・パーマなど対応できるメニューを具体的に記載。「何でもやってほしい」を防ぐ。
- 料金表(メニューと金額):口頭ではなく契約書内または別紙として明示。金額変更の際の手続きも決めておく。
- 支払い条件(締め日・支払日・方法):「当月末締め・翌々月末払い」など具体的に。振込先情報も記載すると請求がスムーズ。
- 経費負担の範囲:水道・電気などの水道光熱費は施設負担とする。カラー剤・パーマ液などの材料費は美容師側負担であることを明記。
- 利用者の体調確認・施術可否の判断責任:施術前の体調確認は施設側の責務とする。施術中の体調変化への対応フローも記載しておく。
- クレーム対応の範囲と期限:施術に関するクレームは何日以内に連絡があったものを対応対象とするか明記。(例:施術後10日以内の連絡分まで)
- 賠償責任の範囲と保険対応:少額(例:5万円以下)は会社側の保険または自社負担で対応。高額の場合は協議とする、など段階を設ける。
- 感染症への対応:利用者の感染症情報を施設側が事前に通知する義務。感染発生時の立ち入り制限の権限なども盛り込む。
- 契約期間・自動更新・解約予告:1年契約・自動更新・解約は3ヶ月前予告など。突然の打ち切りによる収入ロスを防ぐ。
- 秘密保持:利用者の個人情報・施設の営業情報を双方が漏洩しない旨。契約終了後も継続して有効とする。
- 反社会的勢力の排除:コンプライアンス上、必須の条項。
業務委託契約書|チェック項目
- 業務内容・業務場所:訪問美容業務(およびそれに付随する業務)であることを明記。
- 業務命令・拘束の禁止:委託者(会社側)は、受託者に対して業務命令・業務時間・場所の強制ができない旨を明記。これが雇用との違いの核心。
- 報酬の計算方法:売上の何%か、施設使用料控除後の金額に対してなのか、交通費加算の有無なども具体的に記載。(例:売上の36%、自家用車使用時+4%)
- 支払い条件:末締め翌月15日払い、振込手数料の負担者など。
- 再委託の取り扱い:無断での再委託禁止・事前承諾が必要・再委託先の管理責任は受託者にあることを明記。
- 当日キャンセル・無断欠勤のペナルティ:理由なく当日欠席した場合、それに係る経費や見込み売上を請求できる旨。
- 休み希望の申告期限:固定日がある場合は何ヶ月前に申告が必要か。(例:1ヶ月前)
- 交通事故・業務中の怪我の扱い:移動中の交通事故は受託者本人の保険で対応すること。業務中の怪我の補償も受託者側で対応することを明記。(業務委託なので労災は適用されない)
- 賠償責任と保険対応:利用者への怪我・損害は、受託者(または再委託者)が加入する保険で対応する。どの保険に加入するか事前確認も重要。
- 競業避止義務:契約終了後も、会社の契約施設への個人営業・引き抜き行為を禁止。違反した場合の賠償額も明記する。(別紙で詳細を定めるのが◎)
- 秘密保持:利用者の個人情報・施設情報・会社の営業情報の漏洩禁止。契約終了後も継続して有効とする。
- 契約期間・自動更新・解約:1年契約・自動更新・解約は2ヶ月前に書面で通知など。重大な瑕疵がある場合は即時解除できる条項も設ける。
- 衛生管理・感染対策:法令に基づく器具消毒・清潔保持・感染対策への従事を義務として明記。
- 善管注意義務・安全配慮義務:利用者の生命・健康を守る配慮義務。業務委託でも法律上の義務として明記する意味がある。
- 反社会的勢力の排除:双方の確約として必須。
雇用契約と業務委託契約の違い

訪問美容師として業務委託で働く場合、「雇用されている」わけではないという点を双方がきちんと理解しておく必要があります。
| 項目 | 雇用契約(アルバイト・社員) | 業務委託契約 |
|---|---|---|
| 指揮命令 | 会社が業務の指示を出せる | 原則、業務命令は出せない |
| 労災保険 | 適用される | 原則、適用されない |
| 社会保険 | 会社が半額負担 | 個人で全額負担 |
| 最低賃金 | 保証される | 保証されない(成果報酬) |
| 確定申告 | 会社が年末調整 | 個人で確定申告が必要 |
| 業務中の事故 | 労災で対応 | 本人の保険・賠償保険で対応 |
業務委託契約を結んでいても、実態として会社が細かく勤務時間・場所を指定し、断れない状況になっている場合は「雇用関係あり」と判断されることがあります。
そのような状態は労働基準法上のリスクになるため、業務委託契約書には「業務命令・時間・場所の制約を強要しない」という条項を明記しておくことが重要です。
訪問美容の保険・賠償責任について
訪問美容は美容室内と違い、利用者の体が不安定な状況(車椅子・ベッドサイド・認知症など)で施術を行うことが多く、思わぬ事故が起きやすい環境です。
万が一の時のために、保険への加入と契約書での責任分担の明確化はセットで考える必要があります。
賠償責任保険への加入
施術中の事故に対応するため、美容師賠償責任保険への加入が必須です。業務委託で働く場合は個人で加入する必要があります。
施設との賠償の線引き
利用者の体調確認・施術可否の判断は施設側の責務とする。施術中の事故については美容師側の保険で対応するという流れを契約書で明記します。
業務委託スタッフへの確認
業務委託で働いてもらう方とは、事故などの際は、スタッフ側が責任を持つのか、会社側が責任を持つのかを明確にしておく必要があります。
移動中の事故は別で対応
業務委託スタッフが自家用車で移動中の交通事故は、本人の自動車保険で対応する旨を契約書に明記することが大切。
訪問美容に対応した賠償責任保険の種類や選び方については、別記事で詳しく解説しています。

tetoで実際に使っている契約書ひな形のポイント紹介
tetoでは、訪問美容の現場経験をもとに作成した2種類の契約書ひな形をご用意しています。以下にそれぞれのポイントをご紹介します。
施設との契約書|ひな形のポイント
- 業務委託の明確化:「施設が乙(美容師側)に業務を委託し、乙はこれを受託する」という関係を冒頭で定義。
- 理髪場所の提供義務:施設側が業務のためのスペースを提供する義務を明記。
- 水道光熱費は施設負担・材料費は美容師負担:経費の区分を明確にすることで、後からの請求トラブルを防ぐ。
- 料金表を別紙または条文内に明記:メニュー名と金額を具体的に記載。変更時の手続きも合わせて定める。
- 支払いは請求書ベース・翌々月末払い:施設側の経理サイクルに合わせた設定。振込先情報も記載済みで請求ミスを防ぐ。
- 施術後10日以内のクレームのみ対応:無制限の責任を避けるための期限設定。
- 利用者体調確認は施設側の義務と明記:施術前の体調チェック責任を施設に帰属させる。
- 損害賠償は5万円以下は保険または自社負担:少額案件を円滑に処理しつつ、高額案件は協議とすることでバランスを取る。
- 解約予告は3ヶ月前・書面にて:突然の打ち切りによるダメージを最小化。自動更新条項もセット。
業務委託契約書|ひな形のポイント
- 業務命令・拘束の禁止を明文化:「乙(会社)は甲(美容師)に業務命令・時間・場所の制約を強要できない」という独立性の根拠条項。
- 報酬は売上の36%・自家用車使用時+4%:施設使用料を差し引いた後の金額に対してのパーセンテージであることも明記。
- 当日無断欠席は経費・見込み売上の請求対象:無断欠勤への抑止力と、実害を補填できる根拠として機能。
- 休み希望は1ヶ月前に申告:固定日がある場合の申告ルールを明確化。施設への調整にも余裕が生まれる。
- 移動中の交通事故は本人の保険で対応:会社側の責任範囲から移動中を除外。
- 競業避止義務を別紙で詳細規定:会社の契約施設への個人営業(30万円)、引き抜き行為(20万円)など、違反パターンと賠償額を具体的に設定。
- 消耗品の自己負担リストを末尾に添付:使い捨てクロス・タオルなど、受託者が自己負担する消耗品と金額を明記することで認識のズレをなくす。
- 再委託は事前承諾+面談が必要:品質管理のために、再委託先を会社が把握できる仕組みを設ける。
- 感染症対応は相互義務として明記:施設からの感染情報提供・美容師側の感染対策履行を双方の義務として定める。
teto代表中山LBLでは、訪問美容の実務経験をもとにした実践的な講座・個別サポートを提供しています。
独立したい方やフリーランスとしてやっていきたい方は、契約書の使い方や開業の流れについても相談できます。











